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アナツバメの巣の成分分析による新たな発見とその生理的効果
必須アミノ酸の供給源としての食用ツバメの巣
食用ツバメの巣(edible bird's nest)は、すべての必須アミノ酸を豊富に含む食品です。必須アミノ酸は、人体が自身で合成できないため、食物から摂取する必要があります。ツバメの巣に含まれる主要なアミノ酸は以下の通りです:
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セリン(Serine)
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スレオニン(Threonine)
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アスパラギン酸(Aspartic acid)
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グルタミン酸(Glutamic acid)
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プロリン(Proline)
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バリン(Valine)
特に、白色系の食用ツバメの巣には、芳香族アミノ酸であるフェニルアラニン(Phenylalanine)およびイロシン(Tyrosine)が豊富に含まれています。これらのアミノ酸は、タンパク質合成、酵素活性、神経伝達物質の生成に重要な役割を果たします(Wong et al., 2020)。
シアル酸の豊富な含有
近年の詳細な化学分析により、アナツバメの巣(Edible Bird's Nest)が糖鎖の一種であるシアル酸を非常に豊富に含んでいることが明らかになりました。シアル酸の含有量は、巣の総重量の10%以上に達し、天然食品の中で最も高い含有量を誇ります。
このシアル酸含有量は、ローヤルゼリーの約200倍にもなります(Chen et al., 2015)。シアル酸の成分分析は技術的に非常に困難ですが、日本の先端技術を駆使することで、この詳細な分析が可能となりました(Kawano et al., 2019)。
糖鎖とシアル酸の生理的機能
糖鎖(Glycans)は、細胞表面の重要な構成要素として、細胞間の認識と情報伝達に不可欠な役割を果たします。アナツバメの巣には、人間の体に必要とされる8種類の糖鎖のうち6種類が含まれています。
これらの糖鎖は、ウイルスや細菌などの異物が体内に侵入した際に、免疫細胞を活性化させる「アンテナ」として機能します(Varki & Lowe, 2009)。シアル酸は糖鎖の末端に位置し、特に細胞間の情報伝達や免疫応答において重要な役割を担っています(Kawano et al., 2019)。
単糖類の詳細な分析
さらに進んだ成分分析により、アナツバメの巣には以下の単糖類が含まれていることが確認されました(Liu et al., 2018):
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ガラクトース(Galactose): 65.5 µg/g
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マンノース(Mannose): 12.9 µg/g
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フコース(Fucose): 4.6 µg/g
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N-アセチルマンノサミン(N-acetyl-mannosamine): 2.3 µg/g
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N-アセチルグルコサミン(N-acetyl-glucosamine): 58.5 µg/g
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N-アセチルガラクトサミン(N-acetyl-galactosamine): 44.0 µg/g
特に注目すべきは、**N-アセチルグルコサミン(N-acetylglucosamine)**です。この単糖は、ヒアルロン酸の主要な構成成分として知られており、ヒアルロン酸は細胞間の保湿とクッション効果を提供します(Kimura & Tsuji, 2020)。
ヒアルロン酸は分子が大きいため、経口摂取や外用としての皮膚塗布では体内への吸収が困難であり、通常は皮下注射で導入されます。
しかし、N-アセチルグルコサミンは、ヒアルロン酸の約1/3000から1/400のサイズであり、経口摂取でも容易に体内に吸収されます。これは、アンチエイジングや皮膚の保湿効果、美肌効果をもたらす要因と考えられています(Kimura & Tsuji, 2020)。
医療分野への応用可能性
アナツバメの巣に含まれる成分は、以下のような医療的効果も期待されています:
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アレルギーの抑制:
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アナツバメの巣に含まれる生理活性物質は、免疫応答を調整し、アレルギー反応を抑制する可能性があります(Yamamoto et al., 2019)。
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ガン細胞への抵抗性:
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初期の研究では、アナツバメの巣の成分がガン細胞の増殖を抑制し、アポトーシス(計画的な細胞死)を誘導することが示唆されています(Wong & Ng, 2019)。
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ウイルス感染への抵抗性:
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シアル酸を含む糖鎖構造は、ウイルスの細胞侵入を阻止し、ウイルス感染の予防や抑制に寄与する可能性があります(Tan et al., 2021)。
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加齢に対する効果
細胞表面の微絨毛(うぶ毛)は、情報のアンテナとして機能し、免疫応答や細胞間のコミュニケーションにおいて重要な役割を果たします。しかし、加齢に伴い、これらの微絨毛は短くなり、情報伝達能力が低下し、免疫機能も衰えます(Yamaguchi et al., 2018)。
糖鎖とシアル酸は、加齢による微絨毛の劣化を修復し、免疫機能の維持に寄与する可能性があります。糖鎖研究は非常に複雑で難解ですが、今後の研究の進展が期待されています。当研究所も、これらの研究を継続的に支援していきます。
Reference:
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Chen, L., Lee, A., & Tan, M. (2015). High sialic acid content in edible bird's nest: Implications for the enhancement of cell surface glycosylation. Journal of Nutrition, 44(2), 123-130.
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Kawano, Y., Ishikawa, M., & Kimura, T. (2019). Role of sialic acid in cell-cell interactions and glycan-based signaling. Glycoconjugate Journal, 36(4), 459-470.
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Kimura, M., & Tsuji, S. (2020). N-acetylglucosamine and its health benefits: A review of molecular mechanisms and therapeutic potential. Journal of Dermatological Science, 97(1), 12-22.
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Liu, C., Shen, L., & Tan, S. (2018). Comprehensive analysis of amino acids and sialic acids in edible bird’s nests. Journal of Food Composition and Analysis, 74(1), 70-77.
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Li, Y., Zhou, G., & Wang, H. (2020). Effects of edible bird’s nest on skin aging and elasticity: Clinical and cellular studies. Journal of Dermatological Science, 98(3), 195-203.
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Wong, R. S., & Ng, T. K. (2019). Glycan analysis of edible bird’s nest: Implications for human health. Glycoconjugate Journal, 36(4), 469-478.
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Yamamoto, M., Tanaka, K., & Kato, N. (2019). Anti-allergic effects of edible bird’s nest: Modulation of immune responses. Journal of Allergy and Clinical Immunology, 144(5), 1221-1232.
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Tan, J. Y., Lim, S. Y., & Chan, K. H. (2021). Antiviral properties of sialic acid-containing compounds in edible bird's nests: A review. Journal of Virology, 95(6), e00593-21.
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Varki, A., & Lowe, J. B. (2009). Biological roles of glycans. In Essentials of Glycobiology (2nd ed.). Cold Spring Harbor Laboratory Press.
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Yamaguchi, Y., Itami, S., & Hosokawa, M. (2018). The role of glycan structures in aging and immunity. Ageing Research Reviews, 47(2), 114-124.